人力資源社会保障部と最高人民裁判所よる時間外労働紛争における典型例の発表【ニューズレター Vol.87】
本記事は、主に中国へ進出されている、またはこれから中国進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国国内での経営活動や今後の中国ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような国家・地方レベルの最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として、青葉グループの広東省広州市天河区に拠点を構える弁護士事務所より作成しております。
【背景】
時間外労働は、労働紛争の引き金となることが多く、且つ労働関係の調和や社会の安定に影響を与える可能性が非常に高いと思われる。今回、人力資源社会保障部と最高人民裁判所は共同で時間外労働紛争の典型的な事例を発表したのは、法律違反しないように雇用主へリスクを提示し、及び法に則った雇用規制を推進する一方、権利者が権利を守るために期待されることを明らかにし、合法的且つ合理的に権利を守るようと労働者を指導するという目的である。
【影響】
今回、時間外労働紛争に関する典型的な事例が発表されたことで、労働時間と時間外労働報酬の法的適用基準がさらに明確になっただけでなく、企業の労務管理に標準的なガイドラインを提供することができた。
【主要内容】
事例1、労働者が違法な残業要求を拒否した場合、雇用主は雇用契約を解除できるか
裁判意見:
労働者の休息権の実現を確保するために、中国の法律では長時間労働の上限が明確に規定されている。 企業の規則や雇用契約書に、労働時間は午前9時から午後9時まで、1週間の労働日数は6日と規定することは、明らかに労働時間延長の上限に関する法律に違反しており、無効とみなされる。 したがって、法律に違反した時間外労働を拒否することは、労働者の正当な権利と利益を守るためであり、雇用者はこれを理由に雇用契約を解除することはできない。
事例2、労働者が雇用主との間で残業代を放棄する協議を締結した場合、残業代を請求することは可能か
裁判意見:
残業代とは、労働時間を延長した場合の労働者への報酬のことで、中華人民共和国の労働法では、雇用主は労働者に残業代を支払う責任があると明確に規定している。 雇用主は、雇用契約の締結において支配的な地位を利用し、従業員に残業代を放棄すると一方的に作成した書式に署名するようと要求することは、法律の規定と公平性の原則に違反、報酬権利と利益を侵害しており、無効とみなされるべきである。 したがって、労働者は雇用主と残業代を放棄する契約を結んだとしても、法律に基づいて残業代を請求する権利がある。
事例3、雇用主が定款に従って残業承認を行わなかった場合、労働者が残業した事実を否定できるか
裁判意見:
実際に雇用主は残業代を支払いっていなかったので、裁判所は、出勤記録、WeChatの会話記録、業務会議の議事録などを、残業の事実を認定することができます。 雇用主は、支配的な立場を濫用し、故意的に残業承認手続きを行わず、労働者の合法的な権利と利益を侵害することはできない。 また、労働者の合法的な権利や利益が侵害された場合、権利保護のための関連する証拠を保存することに注意すべきである。
事例4 、雇用主が労働者と給与パッケージ制の実施に合意していた場合、雇用主は法律に基づいて残業代を支払う必要があるか
裁判意見:
給与パッケージ制とは、法定の標準労働時間と残業代を雇用契約で取り決めた報酬金配分方法のことで、残業が多く、且つ残業時間が固定されている一部の業種に多く見られる。パッケージ制を採用している企業について、現地の最低給与標準に基づき、労働者の実際の労働時間に法定倍数をかけて算出した残業代が、パッケージ給与と現地の最低給与との差額よりも低い場合、雇用主は法律に基づいて残業代を全額支払っていないと認定され、雇用主は法律に基づいて補償しなければならない。
事例5、雇用主が労働者と追加業務において合意に達していない場合、労働者は拒否する権利があるか
裁判意見:
雇用契約を変更する際に、合法性、公正性、平等・自発性、合意達成、誠実信用の原則に従うべきである。 仕事量や労働時間の変更は、労働者の休息権に直接影響を与えるものである。大幅な変更が発生する場合、雇用主は労働者と協議すべき、強迫もしくは強迫のような手段をとるべきではなく、尚更、法律の規定に違反してはならない。
事例6、残業代の支払いに関する紛争処理の立証責任を如何に分担すべきか
裁判意見:
労働者が残業代を請求する場合、「請求する者は証拠を提出すべき」の原則に基づき、残業の事実があることを示す証拠を提出するか、関連する証拠が雇用主の管理下にあることを示す証拠を提出する必要があるとしている。雇用主が証拠を提出すべきなのにそれを行っていない場合、時間外労働の事実が存在すると推定することができる。
事例7、 時間外労働中に労働者が職場で負傷した場合、雇用主と労働者派遣会社が連帯して賠償責任を負うべきか
裁判意見:
労務派遣において、時間外労働中に労働災害が発生した場合、雇用主と労働者派遣会社の両方にも責任があり、連帯して賠償責任を負うべきである。 労働者が雇用主および労働者派遣会社と補償契約を締結したら、補償契約が法律および行政法規の規定に違反し、詐欺、強制、または他人の難儀につけこむ場合、当該補償契約は有効とはみなされない。また、補償契約に重大な誤解、または明らかに不当であるとみなれる場合、労働者は法律に従って取消権を行使できる。 具体的には、労働者が社会保険行政部門から業務上の負傷と認定されることなく補償契約が締結され、補償契約で合意された補償額が法定の労災保険治療基準よりも著しく低い場合、雇用主はその差額に対して補償しなければない。
事例8 、就業規則という形で雇用主が時間外労働の事実を否定することが有効か
裁判意見:
雇用主が策定した合理的、且つ合法的な規則や規定は、雇用主と労働者の権利と義務を決定するための基礎として用いることができる。ただし、雇用主が不合理な規則の形で労働者の残業の事実を否定している場合、当該規則などは無効とみなされるべきである。裁判所は、出勤簿や勤務体制の記録などの証拠を組み合わせて残業の事実を判断することができる。
事例9、残業代が精算済みであることを確認するために退職書類に署名した後、労働者が未払い残業代を請求することができるか
裁判意見:
雇用主は、その後の給与支払い、離職証明書の発行、ファイルの移行、社会保険関係の移行などにおいて支配的な立場を利用して、労働者が離職証明書に署名して残業代を含む権利を放棄することを強制、もしくは残業代が全額支払われていないのに残業代が全額支払われたことを確認したと労働者に署名させたりしていた場合、 残業代が精算されたことを確認したと退職書類に署名したとしても、労働者は雇用者に残業代を請求する権利がある。
事例10、 残業代請求の仲裁の時効はどう判断すべきか
裁判意見:
仲裁時効は、一般時効と特別時効に分かれており、労働関係が存在する間の労働報酬の滞納による労働紛争が発生した場合は、特別時効が適用されるべきである。すなわち、労働関係が存在する間の労働報酬の滞納による案件の仲裁時効は、「雇用主が権利の侵害を知り、または知るべきであった日から1年」に限定されない。 ただし、雇用関係が終了した場合は、雇用関係が終了した日から1年以内に請求しなければならないとされている。 残業代は労働報酬の一種であり、紛争の処理には特別な時効が適用されるべきである。
【法規リンク】
「人力資源社会保障部 最高人民法院 共同で労働・人事紛争の典型的な事例(第2集)を発行すること関する通知」
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