2025/26年度香港財政予算案及び今後の展望
- 公開日 2025.02.26 | ニュースレター 税法・税務関連 資料 - ダウンロード 香港

2025年2月26日、香港政府より2025/2026年度(2025年4月1日~2026年3月31日)の財政予算案が発表されました。同案内容の概要速報及び今後の展望・見解については、以下の通りとなります。
Contents
概況
2025年2月26日、香港財務長官の陳茂波(ポール・チャン)氏が、就任以来9度目となる財政予算案の演説を立法会にて行った。
香港の経済は引き続き成長を続けているものの、そのペースは緩やかであり、2023年と比べて実質GDP成長率は2.5%となった。米国では下半期に利下げサイクルに入り、中国本土においても経済刺激策や市場の展望を安定化を目的としたさまざまな政策が導入された。さらに、中央政府による香港支援策、香港政府および各業界の努力も相まって、香港の資産市場の雰囲気は改善している。
一方で、インフレ率は引き続き緩やかに推移しているが、2024年のインフレ率は1.1%となり、2023年の1.7%と比べて低くなった。また、2024年の労働市場は引き続き留まっており、失業率は3.1%と低水準を維持したが、2023年の2.9%と比較するとわずかに上昇した。
今後の見通しとしては、外部環境は依然として厳しい状況が続くと予測される。特に、米国新政権の動向が香港経済の展望に重大な影響を与える可能性がある。米国政府が関税を大幅に引き上げた場合、国際貿易や投資フローに深刻な混乱が生じ、他国の経済圏の対抗措置を引き起こすことが予想される。貿易摩擦の激化は、香港の輸出、特に中国本土から米国向けの再輸出に大きな影響を及ぼす可能性がある。
小売・飲食業界については、2024年12月初旬に中央政府が深圳市民を対象とした香港へ複数回訪問可能な個人観光スキームを再開・拡大したことで、本土からの香港訪問観光客数が顕著に増加し、同業界を下支えすることが予想される。
2024/25年度の財政赤字は872億香港ドルに達し、当初の赤字予測である481億香港ドルより391億香港ドル上回った。外部環境の不確実性の継続、世界の政治・経済情勢の複雑化、香港経済の構造調整の進行を踏まえ、今後はより慎重な公共財政の管理が求められる。こうした背景を踏まえ、本予算案では以下の救済策を提示している。
予算案ハイライト
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財政・税務優遇政策案 |
1 |
2024/25年度の法人税、給与所得税、その他個人所得税について、HKD1,500を上限として100%減税する |
2 |
2025/26年第1四半期の住宅用不動産および非住宅用不動産の固定資産税(レート)をHKD500を上限として免除する |
3 |
印紙税額がHKD100となる不動産の価格を最大300万香港ドルから400万香港ドルに即時引き上げる |
4 |
本年中に、ファンド、シングルファミリーオフィス及びキャリードインタレストに対する優遇税制として、免税制度における「ファンド」の範囲の拡大、ファンド及びシングルファミリーオフィスに対する優遇税制の対象となる適格取引の種類の拡大、プライベートエクイティファンド等によるキャリードインタレスト分配に関する優遇税制措置の強化を含む提案を策定する |
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長期的発展のための政策 |
1 |
香港で生産ラインを運営する企業に対し、スマート生産戦略の策定と既存の生産ラインへの先進技術の導入を支援するため、1対2のマッチングベースで最大HKD250,000の資金を2年間のパイロット製造および生産ラインアップグレード支援スキームを提供する |
2 |
北部都会区開発は、住宅や工業用地の大規模な供給をするだけでなく、イノベーションテクノロジー、ハイエンド専門サービスと近代的な物流、高等教育と文化、スポーツと観光の利用のための土地を提供する |
グローバルミニマム課税および香港ミニマムトップアップ税に関する改正法案の官報公告
2024年の協議を経て、香港政府は、2024年12月27日《香港税務局(改正)(多国籍企業グループに対する最低税率)》法案2024(以下、「改正法案」)を官報で公示した。改正法案は、経済協力開発機構(OECD)が打ち出した国際的な税制改革「税源浸食と利益移転(BEPS)2.0」に基づき、グローバルミニマム課税および香港ミニマムトップアップ税(HKMTT)を導入することを目的としている。
グローバル税源浸食防止(GloBE)規定
BEPS 2.0の第2の柱は、直近4事業年度のうち少なくとも2事業年度以上において、全世界連結年間売上高が7.5億ユーロを超えている多国籍企業(MNE)グループに適用される。GloBE規定は、これらの大規模なMNEが事業を展開する各管轄区域において最低15%の税率で課税されることを確保するため、以下2つの連動規定を通じてトップアップ税を課す。
- 所得合算ルール(IIR)― 適用対象のMNEグループの親会社が所在する管轄区域外において、15%未満の実効税率(ETR)で課税されている軽課税構成企業の親会社にトップアップ税を課す主要な規定
施行日:2025年1月1日以降に開始する事業年度より適用
- 軽課税所得ルール(UTPR)― IIRに基づいたトップアップ税が課税されなかった場合において全て課税される事を保証するためのIIRの補完規定
施行日:財務局長が後日指定する日から適用
香港ミニマムトップアップ税(HKMTT)の課税メカニズム
GloBE規定に基づき、香港は独自の適格地域内ミニマムトップアップ税(HKMTT)を導入する。これにより、香港に所在する軽課税構成企業に対して、香港がトップアップ税の徴収を優先的に行うことが可能となる。課税されたHKMTTは、他の管轄区域においてIIRおよびUTPRに基づき発生する債務から直接控除できる。
施行日:2025年1月1日以降に開始する事業年度より適用
デミニミス免除やその他の重要な経過措置規定およびセーフハーバーの詳細は、弊社の昨年ニュースレターを参照。
(リンク先:“香港におけるグローバルミニマム課税と香港ミニマムトップアップ税の導入”)
税務コンプライアンス
GloBE規定と香港ミニマムトップアップ税に基づくトップアップ税は、「法人税(Profits Tax)」とみなされる。これにより、現行の《税務局条例(IRO)》およびその他の管轄区域との包括的な二重課税防止協定に基づく税務運用制度が、トップアップ税にも適用される。その他のトップアップ税の運用に関する重要な更新事項は以下のとおりである。
トップアップ税の通知書および申告書の提出
対象となるMNEグループは、GloBE規定およびHKMTTに基づき、事業年度終了後6ヶ月以内にトップアップ税に関する年次通知書を提出し、報告事業年度末日から15ヶ月以内に税務申告書を提出する必要がある。なお、移行年度に限り、トップアップ税申告書の提出期限は18ヶ月まで延長される。MNEグループは、香港の構成企業のうち1社を選択し、トップアップ税通知書および申告書を提出するが、選択を行わない場合は、MNEグループの各香港構成企業が個別にトップアップ税申告義務を負うこととなる。申告遵守を促進するため、IRDは、通知書および申告書の提出、メッセージの送受信などを行うための電子プラットフォームを開発する。
追徴課税査定および異議申し立ての期限
トップアップ税に関する追徴課税査定の遡及期限は、(ⅰ)会計年度の終了日、(ⅱ)会計年度において未査定または過少査定である事が税務局に認知された日のいずれかの遅い時点から6年以内とされる。また、トップアップ税の査定通知に対する異議申し立て期間は、査定通知の日付から2ヶ月以内とされる。
取引記録の保管に関する変更
対象となるMNEグループの香港構成企業は、トップアップ税の計算に関連する取引、行為、または運営に関する十分な記録を保持しなければならない。これらの記録は、該当取引の完了後少なくとも12年間保管する必要がある。
主要目的テスト
主要目的テストが導入され、GloBE規定の文書に準拠している場合においてのみ適用される。納税者が、トップアップ税の申告や納付などの義務を回避することを主たる目的として取引・契約を行った場合、その取引・契約は存在しなかったものとして取り扱われる。
推奨事項
GloBE規定およびHKMTTは2025/26年度より香港で導入される予定である。IRDは、改正法案が可決された場合、本年度中に納税者向けに詳細なガイドラインを発表する予定である。したがって、対象となるMNEグループは、改正法案の最新動向に注視するとともに、税務アドバイザーに相談し、2025/26年度改正法案の要件を遵守できるよう適切な情報を収集することが推奨される。
法人税申告書(BIR51)の電子申告
税務手続きの世界的なデジタル化の動向に対応するため、IRDは、法人税申告書の電子申告制度を導入する方針を表明している。納税者は、財務諸表および税金計算書を含む法人税申告書を、iXBRL形式で電子的に提出することが段階的に義務付けられる。IRD は、電子申告に必要なiXBRL データファイルを生成するためのタクソノミーパッケージおよびiXBRLデータ作成ツールを納税者向けに開発した。これらのツールは無料でダウンロード可能であり、納税者はIRDの公式ウェブサイトから最新バージョンの変換ツールを入手できる。
電子申告の実施スケジュール
現在、法人税申告書の補助フォームの電子提出は義務化されているが、申告書の電子提出は任意となっている。この部分的な義務化は、納税者がiXBRLによる税務申告要件に慣れ、電子申告の早期導入を促進することを目的としている。
IRDは、税務条例(IRO)第51AAB項に基づき、2025年4月1日以降に開始する税務年度(2025/26年度)から、最終親会社(UPE)の所在地にかかわらず、適用対象のMNEグループ(グループ連結年間売上高が7億5,000万ユーロ以上のMNEグループ)の香港構成企業に対し、法人税申告書および添付書類の電子申告を義務付ける官報公告を発行する予定である。
対象となるMNEグループ企業の電子申告義務化後、IRDは、2028年に一定基準の売上高を超える大規模企業に対しても電子申告を義務化することを検討しており、2030年までに全面的な電子申告の導入を目標としている。
2024/25年度および2025/26年度の法人税申告方法
2024/25年度
2023/24年度の法人税申告と同様に、2024/25年度の法人税申告は以下の3つの方法のいずれかで行うことができる。
申告方法 |
法人税申告書 |
補助フォーム |
添付書類(注1) |
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1. |
紙申告 |
紙 |
XML(注2) |
紙 |
2. |
完全電子申告 |
電子 |
XML |
iXBRL |
3. |
半電子申告 |
紙(注3) |
XML |
iXBRL |
注1:監査報告書および法人税計算書など
注2:PDF形式の補助フォームをXML形式のデータファイルに変換。法人税申告書を紙で提出する場合は、システムで生成されたコントロールリストを印刷し、署名の上、提出が必要
注3:簡易版法人税申告書を印刷し、提出
2025/26年度法人税申告
IRDは、2025/26年度の税務年度より、適用対象となるMNEグループの香港構成企業に対し、法人税申告書および添付書類(法人税計算書、監査報告書など含む)を、完全電子申告(Full-Electronic Mode)または半電子申告(Semi-Electronic Mode)のいずれかの方法で電子提出することを義務付ける予定である。
その他の企業については、2024/25年度と同様に、上記3つの申告方法のいずれかを選択できる。
推奨事項
電子申告手続きにおける潜在的なエラーや混乱を最小限に抑えるため、対象となるMNEグループの香港構成企業は、電子申告の要件に注視し、税務アドバイザーに相談し、詳細な情報を収集することが推奨される。
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