よくある監査の相談事項シリーズ 第七回 会計上の見積もりとは
弊社では香港へ進出されている多くの企業に対して会計監査を行っているため、日々様々なご相談をいただきます。その中で、多くの企業からいただいたご相談事項を、「よくある監査の相談事項シリーズ」と題しまして、皆さまの監査のお悩み解決の一助となることを願い、ご紹介していきたいと思います。
今回はその第7回目となります「会計上の見積もり」についてお話いたします。
Contents
会計上の見積もりとは
財務諸表に含まれる資産や負債のうち、予測される将来の便益および義務を評価した資産/負債の見積もりや、既に事象が発生しており債権債務などを見積る必要性がある場合など、入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することを会計上の見積もりと言います。
この説明だけでは何のことだかよく分からないかと思いますので、まずは、会計上の見積りについて以下の例をご参照ください。
会計上の見積もりの例
貸倒引当金
貸倒引当金の計上には、顧客や貸付先から将来どの程度の債権の回収が出来るのかを見積る必要があります。通常なら債権は全額回収できるはずですが、相手方の財務状況や経営状況が悪化すると、全額回収できない可能性もあるため、債権の減額を検討しなければならなくなります。この減額部分が引当金となります。
例えば、3億円の貸付金が未回収となっている顧客が経営不振に陥っており、支払能力が低下し、担保などを考慮しても1億円しか回収できないと考える場合、回収見込み額の見積もりは1億円となり、残りの2億円分の引当金を計上することになります。
減損
株式や土地不動産など、投資した資産が期待していただけの収益を上げることが出来なくなってしまった場合、その時点で投資資産の価値は下がってしまったとみなされます。そのような兆候が見受けられる場合、収益の低下および資産の回収可能性の減少に応じて、資産の金額を引き下げる減損を計上することになります。
この「減損の兆候」の判断や、「収益の低下」および「資産の回収可能性」を計算する際には、会計上の見積もりが大きく影響します。
進行基準による売上認識
売上認識における進行基準とは、作業が完成した時に一括で全額を計上するのではなく、その作業の進捗に応じて段階的に売り上げを計上する方法となり、工事やソフトウェアの開発、サービス提供などを行う際に使用されるものとなります。
例えば、総額10億円の工事を3段階の工程に分けて行い、1段階目の作業が全体の20%、2段階目の作業が50%、そして3段階目の作業が30%を占めると考えた場合、各段階を終えた際にそれぞれ2億円、5億円、そして3億円の売上を計上することになります。この場合、経営者は各工程が全体のどの程度の割合を占めるのかなどを見積もる必要があります。
会計上の見積もりは将来的に考えられる結果の範囲の中で行われることになります。入手した情報を基に、どの様に見積もりを算出するかについては経営者が判断をする必要があります。しかし、どの程度の情報をどこから入手すべきかなどについては明確な基準が定められているわけではないため、多くの場合において、会計上の見積もりにおいては不確実性が発生します。
会計上の見積もりに対する監査上の注意事項
会計上の見積もりには様々な種類がありますが、どれもその金額を直接観察できない場合において、経営者により算出されるものとなるため、主観性や不確実性を伴います。ただ、不確実性が低く、見積もりを行うに当たっての複雑性や主観性が非常に低いものも見積もりの中にはありますが、一方で不確実性が非常に高いものもあり、不正に使用されることも少なくありません。
そのため、監査の手続きにおいて、会計上の見積もりへのリスク評価やリスク対応手続きは非常に重要なものとなります。
例えば、先に例とした挙げた減損の判断をする際に、収益の低下や資産の回収可能性の現象を小さく見積もることで、大きな減損損失の計上を回避し、財務諸表の見栄えが悪くなるのを意図的に防ぐことが出来てしまいます。
監査人はこれらのリスク評価を行うために、その重要性の大きさに応じて、見積もりの計算根拠の説明や関連証憑の提出を求めることがあるため、会社側は会計上の見積もりを行う際にはしっかりとした準備を行うことが必要となります。
会計上の見積もりを正しく行うには
会計上の見積もりを行う際にはしっかりとした準備が重要であると理解をしていたとしても、見積もりの種類によっては、どうしても主観性や不確実性が高くなってしまい、根拠の説明が難しくなることがあります。
また、貸倒引当金などは比較的頻繁に発生するため、見積もりを行うためのしっかりとしたルール(会計方針)を策定しないと、金額が大きい過少計上などが発生してしまう可能性もあり、監査修正や限定意見の要因となってしまうかもしれません。
この様な状況を回避するために、見積もりの算定方法につき、事前に専門の会計事務所に相談をして、適切な準備を進めることが重要となります。また、適切な見積もりの算定方法を確立した後も、しっかりとそれを行うための内部統制環境が整備され、有効に機能しているかを定期的に確認することも重要です。
弊社グループでは、各種専門家を揃えており、このような会計上のお悩みや、内部統制環境に関するご相談への対応など幅広い業務を提供しておりますので、いつでもお気軽にご連絡ください。
<<参考リンク先一覧>>
・Hong Kong Accounting Standard 8 「Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors 」
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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