よくある監査の相談事項シリーズ 第三回「リース会計 (Lease Accounting)」
弊社では香港へ進出されている多くの企業に対して会計監査を行っているため、日々様々なご相談をいただきます。その中から、多くの企業からいただいたご相談事項を、「よくある監査の相談事項シリーズ」と題しまして、皆様の監査のお悩み解決の一助となることを願い、ご紹介していきたいと思います。
今回はその第3回目となります「リース会計 (Lease Accounting)」についてお話いたします。
リースとは
香港財務報告基準 (HKFRS、国際財務報告基準(IFRS)と同義)において、リースとは
「資産を使用する権利を対価との交換により、一定の期間にわたり移転する契約」
と定義されています。主なリース契約として、オフィスや車両、コピー機などの賃貸契約が挙げられます。
リース期間内は借手が貸手に対してリース料を支払う必要がありますが、所有している場合と同じように自由に使用することができる一方で、購入する場合と比較して初期費用の負担が少ないため、多くの企業が利用しています。
これまで、このリース取引の会計処理はファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分けて扱われてきました。
ファイナンス・リースとは
お金を借りて資産を購入する「ローン購入」に近い取引となり、契約の内容によってはリース期間満了時に対象資産の所有権が借手に移転されます。
ファイナンス・リースの場合、一般的にリース期間中の契約解除は出来ず、また借手がリース物件の取得価額および諸経費の概ね全額をリース料として支払う取引となります。会計処理としては、リース資産とリース負債を財務状態計算書 (貸借対照表、バランスシート)に計上する、いわゆるオンバランスの処理となります。
オペレーティングリースとは
一方で、オペレーティング・リースは、「レンタル」に近い取引となり、リース期間が終了したら返却し、一般的に中途解約や、リース期間終了時に契約の更新が可能です。
また、通常はリース期間やリース料が、リース物件の耐用年数や取得価額に比べ、小さいものとなります。オペレーティング・リースの会計処理は毎月賃料を費用計上するというシンプルなものとなり、オフバランス(資産計上しない処理)となります。
新しい基準のリース会計とは
2019年1月1日以降に開始される事業年度より、HKFRS16号に基づく新リース基準が適用されることになりました。
これまでリース取引の会計処理は上述の通り、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引により分けて行われていましたが、新しいリース基準ではその区別をする必要がなく、後述の免除要件を満たすリースを除き、全てオンバランス処理をすることが求められるようになりました。また本基準の適用は強制的に行われたため、全ての企業がそれに従って会計処理を行う必要があります。
オンバランス処理が必要となることで、バランスシート上の負債(他人資本)の金額が増加することになり、結果として企業の自己資本比率が下がってしまうというデメリットはありますが、一方で本会計基準導入前のオフバランス処理では、各リース契約における支払総額、つまり潜在的な債務額を認識することが出来ませんでした。そのため、実際に企業が倒産した際、バランスシート上に記載されていなかったリースが表面化し、巨額債務が判明したケースもありました。
このような背景も手伝い、財務諸表を入手されるステークホルダー(株主や銀行などの利害関係者)を保護するという目的のもと、本基準が導入されることになりました。
ただし、リース会計には免除規定も設けられており、以下に該当するような少額または短期のリースについては会計処理を単純化することが認められており、従来のオペレーティング・リースの様に、毎月の賃料を費用計上をするオフバランス処理が可能です。
短期リース – リース開始日において、リース期間が12か月以下であり、かつ購入オプションを含んでいないリース契約
少額の資産 – 新品の状態での価値が少額な資産 (5,000米ドルが基準値とされる)を原資産とするリース契約
これらについてはオンバランス処理をしなかった場合の影響が比較的小さいと考えられるため、リース会計の適用外とすることが容認されています。
日本基準との違い
HKFRS/IFRS16号が導入されてからも、日本での会計基準においては、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分けての会計処理が行われていました。しかし、この度、日本でも国際会計基準との整合性を図るために、すべてのリース契約をオンバランス処理をする会計基準の開発が進められており、2023年5月に公開草案が公表されました。
これによりIFRS16号と同様、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかに関わらず、すべてのリースを金融 (ファイナンス)の提供と捉え、使用権資産に係る減価償却費およびリース負債に対するみなし利息を計上する単一の会計処理モデルによることが提案されています。
一方で、日本における新基準はIFRS16号のすべてを取り入れるのではなく、主要な定めのみを取り入れ、簡素で利便性の高い会計基準とすることが提案されています。
そのため、日系企業においては、連結会計処理を行うにあたり、今後、導入される日本の新会計基準の詳細を把握した上で、HKFRS / IFRS16号との違いをしっかりと理解する必要があると考えられます。
監査における注意点
HKFRS16号は、中小企業向けの簡易的な財務報告基準であるSME基準もしくはPE基準を導入している企業を除き、すべての企業に対し強制的に適用されたものとなります。また、ほとんどの企業が事務所や社宅の賃貸契約やコピー機のレンタル契約などを行っているため、実際にリース会計を行う必要があります。
正しい会計処理を行っていない場合、会計監査を受ける際に、監査修正が入る恐れがあります。とは言え、リース会計の処理方法はリース契約の内容により異なるため、一概に簡単に帳簿へ反映できるようなものであるとは言えません。
例えば、オフィスの現状回復費用は借手側の負担となるか、前金の支払いは必要となるか、家賃無料期間があるか、などの要素により計算方法が異なります。また、リース契約が新規の契約か、既存契約の更新かによっても、リース会計の計算対象期間が異なるなど、リース契約の内容をしっかりと理解をした上で、様々な要素を検討する必要があります。
そして、企業によっては、自身が借手としてリース契約をした資産を、関連会社や他社に貸し出す「サブリース契約」を行うケースもあります。当該企業はサブリース契約においては、貸手となるため、異なる会計処理を行う必要があることに注意する必要があります。
リース会計の対策
上述の通り、リース会計を適切に行うには、会計基準を正しく理解するだけでなく、リース契約の内容も正確に把握する必要があります。しかしながら、それは容易なものではなく、HKFRS16号が実行されてから数年が経過した現在でも、リース会計を適切に行えていない企業は決して少なくありません。
弊社ではリース会計の処理に悩まされている企業に対して、計算のレビューや計算表の作成、また経理担当者へのトレーニングなどを提供しております。
一度適切な会計処理を理解することが出来れば、同様の内容のリース契約を交わされる場合や、既存契約の更新などを行う時には自社にて適切な対応が可能となるため、監査修正などが発生することを防ぐことが可能となります。
弊社グループでは、日本人経営者への日本語での会計基準の説明とローカルスタッフのご担当者への広東語での会計処理の詳細の説明を共に提供させて頂いております。もし、監査対応や会計処理につきお悩みがございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
【参照リンク】
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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