香港の税務リスクシリーズー第四回:税務リスクを事前確認 税務デューデリジェンス
企業買収やM&Aの際に、買収前に買収対象企業に潜在的なリスクが潜んでいないかを事前に知り、買収の実行判断材料として、買収対象企業に対するデューデリジェンスのご依頼をいただくケースがあります。
今回は、いくつかあるデューデリジェンスの中から、税務に関する税務デューデリジェンスついて手続きや調査範囲について説明させていただきます。
Contents
税務デューデリジェンスのメリット
税務デューデリジェンスを行うことにより、過去の税務申告状況や税務調査内容を分析することで買収先が抱える税務リスクについて把握することが可能となります。過去の税務申告の漏れや納税の未払いや誤りなどがあった場合には、買収後に買い手側が支払義務を負うことにもなりかねません。
税務デューデリジェンスを実施することで事前に追徴課税の可能性などを把握し、事前に発生しうる損失を把握しておくことが可能となります。
調査範囲
香港法人に対する税務デューデリジェンスの範囲として、一般的に法人として税務局へ申告義務が課される以下の2つの視点(但し、これらに限らない)から、調査が実行されるケースが多いといえます。
- 法人税申告
- 従業員に関する申告
法人税申告
法人税申告に関する確認事項として、主に以下の項目があげられます。
申告・納税状況
調査対象となる法人が、毎年申告期限内に申告手続きを完了しているかをチェックします。もし、支払税金が発生する申告が遅延した場合は、支払納税額の最高3倍の罰則金が科せられる場合もございます。
また、前年度において課税対象利益がないといった内容で申告を行った場合、税務局はそれ以降の数年間、当該法人に対して申告書を発行しない場合があります。ただし、申告書が発行されていないからと言って、申告義務が免除されているというわけではありません。
仮に申告書が発行されていない某年度において、単年度だけで課税対象利益が発生している場合は、(課税対象利益が過去年度からの繰越欠損金と相殺される前に)法人自ら当該対象決算日から4カ月内に、税務局へ課税対象利益が発生している旨を書面にて通知する義務があります。税務局は当通知を受けて、法人税申告書を発行します。
また、納税義務が発生している場合においては、支払い期限内に納税が完了しているかか、未払状態の税金がないか等についても確認を行います。
税務調査の状況
香港税務局は、毎年法人から提出される申告資料を一旦受領し、提出された資料をもとに納税通知(Notice of Assessment)や欠損金通知(Statement of Loss)を発行します。
ただし、これでその年度の申告内容が承認されたというわけではなく、申告後、数年経過した時点においても、過去7年間の申告内容において何か疑わしい点等がある場合には、質問状を発行してくる場合があります。質問状が発行された場合、指定された期限内に、関連の証拠資料を収集し、回答文書を作成・提出する必要があります。
税務デューデリジェンスにおいては、法人と税務当局との間で現在進行中、未解決の事項等がないかを確認します。もし、現在進行中や未解決の問題事項がある場合は、それによる税務上の影響(追徴課税など)がないかも確認対象となります。
税務調整の内容
申告の際に法人税申告書とあわせて提出される税金計算書(Tax Computation)には、会計基準に沿って作成された損益計算書上の税引前利益・損失に対し、税法に沿って加えられた益金算入・不算入、損金算入・不算入などの税務調整が明記されております。これらの調整処理において、税務上のリスクが潜んでいないかを確認する作業となります。
税務調整として加えらたもので税務リスクを伴う恐れのあるものの一例として、為替差損益の取り扱いがございます。為替差損益は、その発生要因に応じて、為替差益であれば益金算入か益金不算入、差損であれば損金算入か損金不算入となるかが判断され、会計上での税引前利益・損失に対する加減算調整として加えられます(詳細は過去の記事参照)。
例えば、銀行の預金残高や口座間の振替において発生した差損益は資産取引において発生したものとして益金不算入/損金不算入となりますが、売掛金・買掛金精算時に発生したものであれば、経常取引において発生したものであると判断され、益金算入/損金算入として取り扱われるものとなります。
益金不算入扱いされている差益に、本来益金として取り扱われるべきものが含まれていないか、同様に損金扱いされている差損に損金不算入扱いされるものが含まれていないかといった点からの確認が必要となります。
従業員に関する申告
香港では従業員に支払われる給与に課せられる給与所得税(Salaries Tax)は、各従業員が年次で確定申告を行うこととなるため、各個人に申告の責務があります。
一方、給与を支払う法人に対しても支払給与額の申告、並び従業員の入退社に関して申告義務が課せられているため、法人として果たすべき従業員に関する申告義務についても、税務デューデリジェンスに含まれる調査範囲となってまいります。
従業員に関する申告義務として、主に以下の項目があげられます。
従業員への給与報酬支払申告
税務局から毎年4月に企業宛に発行される申告書Employer’s Return(BIR56A/B)と呼ばれる申告書により、法人は直近の税務年度(前年4月~翌3月)において各従業員に対して支払われた給与・報酬・手当について申告する必要があります。
なお、こちらは従業員がいない場合においても発行された場合は、従業員がゼロといった内容で申告を行う必要があります。
従業員の入退社に関する申告
従業員が入社ならび退社する際に、法人はその都度税務局に対して指定のフォームで届け出を行う必要があります。
従業員入社の時点:当該従業員の入社日から3カ月以内に指定のフォーム(IR56E)に関連情報を記入し、申告する義務があります。
従業員退社の時点:当該従業員の退社日の1カ月前までに指定のフォーム(IR56F)に関連情報を記入し、申告する義務があります。
当該従業員が退社し、香港を離れる場合(駐在員の帰任など)には、香港を発つ予定日1カ月前までに指定のフォーム(IR56G)に関連情報を記入し、申告する義務があります。
企業買収やM&Aの際に限らず、今後問題が顕在化し、多額の罰則金や追徴課税が発生する前に、自ら該当する潜在的なリスクについて調査することもお勧めいたします。弊社でもこのような税務デューデリジェンスを含めた調査業務も承っておりますので、専門サービスが必要な際は、どうぞお気軽にお問合せください。
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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