香港法人の閉鎖・撤退の方法
ここ数年での香港の情勢やコロナによる経済の悪化の影響を受け、会社経営が立ち行かなくなってしまった、もしくは今後のビジネスの展望が描けないといった悩みを抱え、香港からの撤退を検討されている企業からのご相談を受けることが多くあります。
以前、「会社を閉じる前に、念のために残しておきたい – 休眠会社」という記事で紹介した通り、一時的に休眠会社にするという方法も検討されるべきではあります。しかし、それでも徹底の意思決定をされた場合、次にどの様な方法で実行すべきかを慎重に検討する必要があります。本記事では香港法人の閉鎖・撤退の各方法をご紹介します。
登記抹消
香港法人を閉鎖する最も簡単な方法であり、最も一般的に選択されている方法が登記抹消となります。登記抹消を行う主な条件として、全株主が同意していて、事業を停止しており、債権者や従業員への未払負債や未納税金が残っていない状態であることが挙げられます。そのために、事前に債権債務を整理し、事業停止日を以って、会計監査を受け、税務申告を行う必要があります。税務申告後、債権債務が無い状態であることが確認させた上で、税務局からタックスクリアランスレター (No Objection Letter)が発行され、その後会社登記所に登記抹消の申請書を提出する流れとなります。
登記抹消に掛かる期間は比較的短めで、税務局へタックスクリアランスレター発行の申請をしてから、通常は6-9か月ほどで作業が完了します。ただし、税務局による審査の過程で、質問状などが発行された場合は1年以上掛かってしまう可能性も十分ございますのでご留意ください。
また、登記抹消完了後から20年以内に裁判所に対して、不服の申し立てがあった場合は登記が回復されることもあり、そのため登記抹消完了後から20年間は株主および取締役への責務が存続するという点についても注意が必要となります。
株主による任意清算
株主による任意清算は、日本でいう会社解散・清算結了に該当する方法となります。株主による任意清算を行うためには香港法人が債務超過の状況になく、向こう12か月に支払期限を迎える全ての負債に対する支払い能力を有している必要があります。
登記抹消との大きな違いの一つに、清算人の任命が挙げられます。登記抹消では、対象法人もしくはその取締役が主導となって各手続きを進めていく必要がありますが、株主による任意清算では株主が任命した清算人が手続きを進めることになります。清算人を務める事が出来るのは基本的に弁護士や公認会計士などの資格を有している者となるため、株主や会社としては安心して清算手続きを進めることが出来ます。その代わり、株主による任意清算の際に発生する費用は登記抹消よりも割高になるのが通常であり、また所要期間も通常1-2年は掛かるため、登記抹消よりも長期に渡る手続きとなります。
なお、登記抹消と比べると比較的短期間にはなりますが、株主による任意清算を選択された場合も、清算手続き完了後2年以内に異議申し立てがあった際は登記が回復される可能性があります。
そのため、清算完了後2年間は株主および取締役への責務が存続します。
債権者による任意清算
上述の登記抹消と株主による任意清算では、香港法人は負債を有していない、もしくは負債の支払能力があることが条件となります。一方で、香港法人が支払い不能に陥った場合、債権者による任意清算を選択することが出来ます。こちらは、負債の支払いが出来ないために債権者からの訴訟を受けるより、自ら清算させたい、もしくは債権者が株主であるため、裁判所を通しての手続等は回避をしたいという場合に選択される方法となります。
株主による任意清算と同様、清算人を任命する必要がありますが、株主による任意清算と比べ、債権者への報告義務や政府関連当局からの関与がより頻繁に発生するという特徴があります。
そのため、債権者による任意清算も登記抹消と比べて、発生する費用は割高になり、また所要期間も長くなる傾向にあります。通常は1-2年ほどで作業が完了しますが、債権者の数や種類 (株主やグループ会社のみか、第3者が入るのかなど)、また清算法人の残余資産の規模などの要因が、資産分配作業に大きな影響を及ぼしかねるため、3年以上掛かるケースもございます。
企業にとって最善の閉鎖・撤退方法とは
この様に香港法人の閉鎖方法はいくつかありますが、どれが最適解となるかは各法人の状況により異なります。
本記事で紹介させて頂いた3つの方法では登記抹消が一番シンプルで、費用も安く、最も早く手続きを終えることが出来る一方で、準備条件は比較的厳しいものとなります。また、登記抹消完了後に株主および取締役へ責務が継続される期間は最も長くなる点についても注意する必要があります。
また、特に合弁企業などの場合は定款で登記抹消は認められておらず、必ず出資パートナー同士での合意のもとで株主による任意清算を選択しなければならないということもございます。
香港法人が債務超過に陥っており、その状態が解消出来ないようであれば、債権者による任意清算を選択せざるを得なくなります。
また、閉鎖の意思決定をする前に、そもそも閉鎖をすることが最適解なのかを検討する必要があります。例えば、第3者への株式の売却や、組織再編の一環としての会社合併などが挙げられます(これらについては、以前「香港法人組織再編成(リストラクチャリング)の手法について」という記事でも触れておりますので、ご参照ください)。
これらの手続にはそれぞれ異なる条件や、長所・短所があり、特にクロスボーダーでの懸念が関与する場合はその複雑性がより高まることになります。そのため、事前に各手続きの精査、比較を十分にすることで、企業にとっての最適解が見つけられます。
弊社では、会社の閉鎖・撤退に関し、会計、税務、法務、労務と言った様々な角度から分析、アドバイスを行うことが出来、今まで多くの企業に対してサポートを提供して参りました。会社の閉鎖・撤退に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問合せください。
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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