【2022年度版】広東省高等法院が発表した、労働争議にまつわる典型例10件【後編】
中国へ進出されていらっしゃる日系企業の皆様にとって、中国での人事は、対応方法を一つ間違えてしまうだけで「労働争議」に発展しかねないため、常に気を配らなければならないトピックの一つではないでしょうか。この「労働争議」について、今年も広東省高等人民法院が、実際におきた10の事例を公表いたしました。これらの事例には、
- 労働関係
- 労働報酬
- 経済補償金
- 典型的な労働争議
- 新産業における雇用をめぐる争議
- コロナ期間中の労働者と雇用主との間の紛争
など多岐に渡るトピックについて網羅しているため、是非ご参考ください。
今回10の事例の内6~10目の事例について紹介しております。前半部分の1~5の事例を紹介した記事はこちらからご覧ください。
Contents
事例6 病院 vs 陳氏(従業員)の労働争議案件
雇用期間内に早期離職した場合、労働者は研修期間の給与を返還する必要はない
【事件概要】
陳氏は2014年に某病院に入職した。2016年3月、病院が研修費用を負担し、陳氏に3ヶ月の研修を受けてもらうことを約束した「研修契約」を双方が締結した。また当契約において、陳氏は研修終了後に、5年間当病院で勤務しなければならず、もし5年未満で退職した場合、研修期間の給与、手当、研修費用などを含めたすべての費用を当病院に返却し、さらにこの5年間の服務期間の満たさなかった期間において、1年につき1万元及びその他の損失を補償することが結ばれた。当時の研修費用は8,560元で、病院は研修期間の関連規定に従って、陳氏の研修期間の給与を支給した。
研修終了後、陳氏は病院に戻って勤務し、そして2021年5月に辞表を提出した。これに対して、病院は(陳氏が服務期間内の早期離職を理由に)労働調停を申請し、陳氏に研修中に発生したすべての費用の全額返金及び違約金の支払いを要求した。
【判決結果】
広東省梅州市中級人民法院の審理によると、「研修契約」における服務期間を満了せず退職した場合、研修期間のすべての費用を返却しなければならないという約束は、労働契約法の関連規定に違反しているため、病院側の陳氏に研修期間のすべての費用を返却してもらうという要求は、法的根拠が不足している。
一方、陳氏は辞職時点において、5年の服務期間満了まで不足している期間は48日であるため、違約金の計算としては、この48日に相応する研修費用を病院に支払うべきだと判決を下した。
【事例として公表された要素】
労働報酬の受領は、労働者の重要な権利である。本案件において、雇用者と労働者との雇用期間内の早期離職における、給与返却という形の違約金の支払いといった約束は法律違反となる。従って、本案件の判決は、雇用者が法に従って労働者の労働報酬の受領を保障することを促進さえるという意義を示唆している。
*補足:中国の労働法に基づき、雇用者が費用を負担し、従業員に専門的な研修を実施する場合、一定期間(=雇用期間)労働者による契約解除を制限して使用者の下に拘束することを約定することができる。労働者が契約書に違反して服務期間内に離職する場合、違約金の支払いを求めることができる。違約金には上限値があり、計算式は以下の通り。
違約金の上限=会社が負担した研修費用×服務期間履行月数/服務期間総月数
事例7 病院 vs 張氏(従業員)との労働争議案件
労働関係(雇用契約)解除後においても、労働契約の付随義務は依然として履行すべし
【事件概要】
張氏は某病院で副主任医師を務めていたが、労働契約の履行期間中、張氏は病院に辞職届を提出し、その1ヶ月後に自ら退職した。その後、病院は当期間中における張氏の欠勤は、病院の規則制度に重大な違反をしたとして除名処分を下し、双方が締結した「雇用契約」を解除した。
しかしながら、病院は「医通カード」の紐づけを解除しなかったため、張氏は裁判所に訴え、当病院に「医通カード」の紐づけ解除を求めた。
【判決結果】
広東省高級人民法院の審理によると、「医通カード」は張氏が医療衛生業界の専門技術者として継続職業教育を行うための必要品であり、張氏の再就職に関わるものである。双方の労働契約関係が解除された後、張氏の医通カードの紐づけ解除の手続きを行うことは、病院が履行すべき契約付随の義務であり、張氏が離職手続きを完了したかどうかによって変更するものではない。張氏が病院にその医通カードの紐づけ解除を要求することは、事実上と法的根拠があり、支持すべきである。
【事例として公表された要素】
雇用主と労働者との労働契約が解除された後、労働契約にて約束された権利と義務は終了したが、当事者である双方は労働者の再就職と雇用者の正常な経営活動に影響を与えないように、法律に基づき労働関係終了後の付随義務を履行しなければならない。
事例8 張氏(従業員)vs 某企業との労働争議案件
労働者は、混同雇用*した関連企業へ雇用責任を負担してもらうことが可能
*注:「混同雇用」とは、労働者がすでにある企業との労働関係が成立しており、主観的または客観的な原因により、その労働者がその企業の関連企業へ出向・派遣され、その企業の関連企業と同様に労働関係を構成してしまい、それによって労働者の労働関係と雇用主体が混乱してしまう現象のことを指す。
【事件概要】
張氏は某企業でバスケットボールコースの対外販売を担当しているが、給料と社会保険は某アパレル会社が支給し、納付している。また某企業とアパレル会社は、共にとあるブランドに従事しており、事務所、人事考査システム、微信作業群を共用しており、両社の財務スタッフと人事スタッフはそれぞれ同じ従業員である。しかしながら、両社はいずれも張氏と書面の労働契約を締結していない。張氏は労働仲裁を申し立て、某企業は2021年2月分賃金の差額と書面の労働契約の未締結による2倍賃金の差額を支払うべきだと主張した。
【判決結果】
珠海市中級人民法院の審理によると、某企業と当アパレル会社の経営業務、勤務地、組織人事、雇用管理及び財務などは複雑に混同しており、両社に対し労働者の混同雇用の事実を認定することができるため、張氏は某企業に雇用責任を負うように要求する権利があるとした。従って、珠海市中級人民法院は張氏の請求を支持するよう判決を下した。
【事例として公表された要素】
雇用主と労働者との労働契約が解除された後、労働契約にて約束された権利と義務は終了したが、当事者である双方は労働者の再就職と雇用者の正常な経営活動に影響を与えないように、法律に基づき労働関係終了後の付随義務を履行しなければならない。
事例9 某技術サービス会社 vs 劉氏(従業員)との労働争議
人事の管理者による書面の労働契約を締結していないことを理由に2倍賃金との差額の支払いを主張することは支持されない
【事件概要】
劉氏は2016年8月に某技術サービス会社に総経理として入社し、会社経営を全面的に担当していた。その際、双方は書面の労働契約を締結していなかった。会社には人材管理を担当する専任の責任者がいないため、劉氏は2017年9月まで技術サービス会社で働いていた期間において、会社を代表して労働者を採用したことがある。そして、劉氏は書面の労働契約を締結していないことを理由に2倍の賃金との差額の支払いを主張した。
【判決結果】
広東省高級人民法院の審理によると、劉氏は総経理として、会社を代表して法律に基づき労働者と労働契約を締結することはその職責範囲に含まれており、書面の労働契約の締結に関する規定及び書面の労働契約を締結しない法律の結果を知っておくべきである。従って、劉氏が技術サービス会社と労働契約を締結していないことは、劉氏自身が仕事の職責を履行していないためであると見なされる。そのため、劉氏は技術サービス会社が書面の労働契約を締結していないことを理由に2倍の賃金との差額の支払いを主張することに対して、当法院は支持しないと判決を下した。
【事例として公表された要素】
会社の総経理などの人事を管理する担当人員は、自ら会社と労働契約を締結することを要求しなければならない。そうでなければ、会社に書面の労働契約を締結していない事において、2倍の賃金との差額の支払いを要求してはならない。本案件は、会社の人事管理の法に基づく職責履行の規範化、雇用主の合法的な権益の保障していくことを促進させる意義を示唆している。
事例10 楊氏の労働報酬支払い拒否の刑事案
賃金支払いの拒否は、法律により刑事責任の対象となる場合がある
【事件概要】
2017年12月に、楊氏は、発注者である建築労務有限公司から、あるビルの一部分の工事の依頼を請け負った。双方は、楊氏が労働者を雇い、発注者が楊氏の代わりに労働者へ給与を支払うことを約束した。その後、楊氏は、数十名の当同社を雇ったが、工事完了後、発注者との間で紛争が発生し、工事の費用が精算できなかったため、楊氏は、2019年7月から、24名の労働者に対する給与の支払いを滞納した(合計44.6万元)。楊氏は、給与の支払いから逃れるため、仏山などへ逃亡した。その期間中に、労働監察部門より、給与支払いの滞納を解決・協力するよう命じられた通知書が発行され、公安機関から何度も呼びかけがあったが、いずれも(公安局)対応がなかった。そのため、2020年1月19日に、楊氏は逮捕された。
【判決結果】
清遠市清城区人民裁判所は、楊被告が国の法律を無視し、逃亡という形で、労働者に対する労働報酬の支払いから逃れ、金額も比較的に大きく、関連政府部門から支払いを命じられた後も支払いを行わなかった行為は、労働報酬の支払い拒否罪となるとする一方で、楊氏は、出頭後、素直に犯罪行為を供述し、犯罪と罰則を認めたため、法に則り、寛大に処罰できるとの見解を示した。楊氏の犯罪行為の事実、性質、詳細及び社会への危害程度に伴い、法に則り、楊氏に対し、1年の禁固刑及び5,000元の罰金が言い渡された。
【事例として公表された要素】
労働報酬を得るのは、労働者の基本権利であり、雇用主または個人は、いかなる理由においても、労働者の給与を滞納し、労働者の利益を損なってはならない。雇用主または個人が、財産移転や、逃亡などの形で、労働者の労働報酬の支払いから逃れ、または支払能力があるにもかかわらず労働者の労働報酬を払わず、また金額が比較的に大きい場合、関連政府部門からの支払いの命令に従わなかった場合、刑事責任を追及されることになる。
上記内容は、広東省高等人民法院公式アカウントより掲載した記事に基づき、翻訳させていただいた日本語参考訳文でごあり、日本語と中国語版とのあいだに何らかの齟齬があった場合、 中国語が優先されるものとします。
オリジナル(中国語版)のリンクはこちら:广东高院发布劳动争议十大典型案例
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