事務所移転により経済補償金を支払うことになったケース
中国では、都市計画、工業区の見直し契約、家賃の高騰など様々な理由が原因で、オフィスや工場の移転を余儀なくされることがあります。その際、ただ引っ越しをするための移転手続きを行えばいいという考えは危険です。移転が発端となり労働争議に発展するリスクが含まれている場合があるからです。
ケーススタディ: まずは中国政府が公表している、実際に起こったケースをみてみましょう。
工場移転リスク
Contents
経済補償金の支払いについて
雇用契約を解除する場合、その条件および状況によっては、経済補償金を従業員へ支払わなければなりません。
このケーススタディでは、工場移転により労働争議が起こってしまい、結果として雇用契約解除に伴い経済補償金を支払っていましたが、そもそもオフィスや工場の移転により雇用契約を解除する場合、従業員へ経済補償金を支払う必要があるのでしょうか?
結論:
結論から言いますと、オフィスや工場の移転が、明らかに従業員へ実質的な影響を与えているかどうかが、経済補償金を支払う必要があるかどうかを判断するためのポイントとなります。
判断ポイント:
近距離での移転の場合:(同じ市内での移転、または補償措置など)
例えば同じ市内の移転であり、従業員が公共交通機関で出勤ができる環境にある、または会社が通勤用のバスを手配するといった補償措置を行う場合、従業員に与える影響の度合いがさほど高くはありません。
そのため、従業員から移転を理由に経済補償金目当てに労働契約の解除を要求されたとしても、労働契約解除の際に経済補償金を支払う必要はありません。(*後述の「広東省高級人民法院の規定」に基づき)
またこのような状況であれば、従業員から移転について同意を得る事は比較的容易ではないかと思います。
遠距離での移転:(市外に移転する場合など)
例えば別の市や別の省に移転しなければならないといった場合、 従業員も家を引っ越さなけれならないため、家賃、家族、社会保険など様々な理由により、多くの従業員は、この移転に対して拒否をする可能性が高いことが予想されます。
そしてこの場合、「会社事由で当時の労働契約書締結時点の条件が大きく変化した」ため、経済補償金を支払った上で労働契約書を解除する必要があります。
また、移転を理由にした解雇の通知は、解雇日の1ヵ月前までに行う必要があり、この通知期間が1ヵ月未満となる場合は、追加で解除予告手当として1ヵ月分の給与を支給する必要があります。
もし従業員も一緒に、新しい移転先付近へ引っ越すことが可能であれば、継続しての雇用となりますが、雇用契約書に記載している勤務地を、更新する必要があることに注意してください。
関連法規:
前述の判断の基準となる法規について紹介いたします。
まず「労使争議の予防処理作業に関する意見」の中で、下記のように規定されています。
「広東省人力資源及び社会保障庁による企業モデルチェンジ・グレードアップにおける労使争議予防処理作業に関する意見」(粵人社規〔2013〕3号)より抜粋:
企業が同じ市内の行政区域へ移転する場合、従業員が市内の公共交通手段で通勤可能、もしくは企業より交通手当、通勤バスなどの便宜を提供され、従業員の生活に顕著な影響を与えていなければ、労働契約は引き続き履行するものとする。
旧来の労働契約が引き続き履行される際は、企業は経済補償金を支払う必要がない。
企業と従業員は当初の労働契約の約定に従い、ぞれぞれの義務をすべて履行すべきである。企業は勝手に従業員の賃金待遇を引き下げることはできず、従業員の当企業での勤務年数は通算するものとし、双方は労働契約もしくはその他書面形式によって、従業員の当企業における勤務年数を明記することができる。
また。「広東省人民法院の労働争議案件難点に関する審理の解答」の中にも、同様の規定があります。
労働争議難点に関する審理の解答(広東高法(2017)147号)第9条より抜粋:
企業の自身の発展計画による移転は、労働契約の締結時に基づいた客観的な状況に重大な変化が生じると見なされ、この時雇用主は労働者と労働契約内容の変更について協議しなければならない。
労働契約の変更内容について合意に達しなかった場合、労働者が労働契約の解除及び雇用主から労働契約の解除に伴う経済補償金の支払いを要求することが支持されている。
しかし、企業の移転が労働者に著しい影響を与えず、しかも雇用主が合理的な補償措置を講じている場合(通勤バス、交通手当などを提供する)、労働者が労働契約を解除する理由としては不十分であるため、雇用主は労働契約の解除に伴う経済補償金を支払う必要がない。
まとめ:
☑ 十分な準備期間を設け、関連の法律規定を把握した上で、忘れず従業員への事前の相談や通知を行うなど計画的に行う。
☑ 経済補償金を支払わなければならないかどうかは、従業員への影響度合いによる。
.
AOBA法律事務所代表弁護士のご紹介
免責事項
本文は国際的、業界の通例準則に従って、AobaConsultingは合法チャネルを通じて情報を得ておりますが、すべての記述内容に対して正確性と完全性を保証するものではありません。参考としてご使用いただき、またその責任に関しましても弊社は負いかねますことご了承ください。
文章内容(図、写真を含む)のリソースはインターネットサイトとなっており、その版権につきましては原作者に帰属致します。もし権利を侵害するようなことがございました際は、弊社までお知らせくださいますようお願いいたします。