香港の不動産市場が回復まで長く厳しい道のりをたどる理由
- 公開日 2023.07.28 | 香港
【この記事のハイライト】
・パンデミック後の中国経済の再開が期待されたが、香港の不動産市場の順調な上昇に結び付いていない。
・香港は過去の経済危機においてこれまで回復してきたが、今回の回復が定着するまでは忍耐が不可欠である。
Contents
中国経済の再開も回復は緩やか
香港の不動産市場の回復状況が捉えどころがない。昨年12月、中国政府は突如としてゼロコロナ政策を廃止し、3年間にわたる自粛制度に終止符を打ったとき、一部の不動産アドバイザーは、2019年からの国内外の相次ぐ不安材料を経て、ようやく投資意欲を改善するような大きなイベントが発生したと考えていた。
その後しばらくは、香港市内の不動産市場は回復への道をしっかりと歩んでいる兆しがあった。CBRE社によると、住宅流通価格の指標であるCenta-City Leading Indexは、2022年に14.5%下落した後、今年第1四半期には7%上昇し、グレードAオフィスの総リース量が、コロナ発生以来3四半期ぶりの高水準に達した。
しかしながら、今年上半期の香港の不動産市場のパフォーマンスは、長引くU字型の回復と、たどたどしいW字型の回復の中間のような回復であったといえる。そもそも、世界経済の深刻な脆弱性から、V字型の急速な回復を期待した人はほとんどいなかったが、中国経済の再開でさえ、持続可能な回復という好転に変えることができなかった状況だった。
1ヶ月物のHIBOR(香港銀行間取引金利)の上昇
不動産の中でも住宅市場では、住宅の流通価格が第2四半期に2.6%下落した。さらに、クッシュマン&ウェイクフィールド社によれば、セカンダリー市場とプライマリー市場の取引件数は、3月の6,690件に比べ、先月は3,613件に減少した。
・プライマリー市場:発行市場とも呼ばれ、債権や株式などでは企業等が発行して資金調達する市場で、不動産では新規住宅の市場である。
・セカンダリー市場:流通市場とも呼ばれ、投資家間で売買される市場
その主な原因は、1ヶ月物のHIBORの再上昇である。住宅ローンの主な基準金利は、2月中旬の2%近辺から急騰し、2007年以来の高水準となる5.2%に達した。
このお金の流動性の急激な引き締めとなる状況が、住宅ローン金利のさらなる上昇につながった。世界中の不動産市場においても、金利上昇において同様の問題が発生しており、特に米国では、景気後退を誘発するリスクを冒してでも積極的な引き締めに踏み切るという連邦準備制度理事会(FRB)の決意を市場が過小評価していたため、金利の方向性をめぐる不透明感が続いている。
オフィス市場の低迷 – 大量の空室に新規需要なし –
中国経済の回復が予想以上に弱かったため、香港では、借入コストが予想以上に急上昇しており、特に商業用不動産セクターのオフィスと投資市場において悪影響が顕著である。
CBRE社が7月10日に発表した内容によると、前期に商業用不動産のローン金利が上昇したことで、借入コストと賃貸利回りのスプレッドがマイナス圏に深く落ち込んでいる。(ローンのコストが賃貸収入を上回ってしまっている。)
不動産資産の相対的な魅力の低さは、2009年以来、今年上半期の取引量が最低となったことが一因であるといえる。さらに、中国本土からの投資シェアは2015年上半期以来の低水準に落ち込んだ。CBRE香港のリージョナル・マネージング・ディレクター、トム・ガフニー氏は、「誰もが低迷しているように感じる」と述べた。
オフィス市場では、グロスの賃貸量は大幅に回復したものの、大量の空室となったオフィススペースを補うだけの新規需要がなかったため、前期は純取得量がマイナスに振れた。このため、空室率は過去最高の15.7%に上昇した。
家賃は下落傾向にあるが小売りセクターの回復が好材料
家賃は17四半期連続で下落し、需要の低迷と最近の供給急増が重なり、すぐに上昇する見込みはない。しかし、好材料は小売セクターで、本土との国境封鎖解除により観光客増による最大の受益者となっていることは間違いない。
CBRE社によると、飲食業者や化粧品ブランドからの旺盛な需要に牽引され、賃貸について2010年以来最も好調な上半期となった。空室率は大幅に低下し、店舗賃料は数年にわたる急落を経て今年上半期は3.1%上昇した。
しかし、小売市場でも成長の足かせがある。CBRE社は、6月末までの6週間における中国本土からの観光客の1日平均到着数は、2017-19年のレベルの55%に過ぎなかったと指摘している。また一方で、JLL社によれば、今年に入ってからの海外旅行の急増は、「国内消費の流出」をもたらしているとした。
さらに、中国本土からの観光客は、中国の国内市場で高級品を購入する選択肢が増えたことで、目が肥え、香港のような従来の場所での買い物や食事だけでなく、新しい体験を求めるようになっており、Savills社のニック氏は、「以前と同じ本土の人たちではありません」と語る一方で、小売セクターはようやく「底を打ち、トンネルの先に光が見えてきた」とも述べた。
香港の不動産市場については、特にテナントの観点から楽観的な見方ができる。高級ブランドの店舗が並ぶ通りの賃料が、これほど低くなったのは2003年のSARSの流行以来であり、オフィス賃料は2019年のピーク時から30%以上下回っている。さらに、中国のより強力な景気刺激策や、金利がピークに達したという兆候によって引き起こされる投資意欲の変化から、香港は恩恵を受けることが期待される。
しかし明らかなのは、景気回復はまだ定着していないということだ。悲観的になる要因もあるが、香港が過去の経済危機からこれまで立ち直ってきたことを考えれば、待望の回復が今後根付くようになることが期待される。
【参照元リンク先】
Why Hong Kong property market still faces a long, hard slog to recovery
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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